デザイナーもクライアントも知っておきたい著作権と商標権の違いと譲渡契約【ロゴ】

著作権や商標権などの権利の話って聞いても退屈ですよね。

でも、だからこそ知っていると強いし、損する事が少なくなる「武器」みたいなものです。特にデザイナーなどのグラフィックを扱う人や文字を扱うライターの様な方は権利の話は知っておいた方が良いです。

私自身は法律の専門家ではなくデザイナーですが、今回は実践的に使える部分での権利の話を中心としてご紹介していこうと思います。依頼を検討しているクライアントの方にも参考になる内容だと思います。

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著作権って何?

著作権とは著作物に無条件で発生する権利で大きく財産権と人格権に分類されます。

財産権:主に著作物を用いて独占的に儲けることができる権利(譲渡可能)

人格権:勝手に著作物を改変されない・公表に関する事を決める権利(譲渡不可能)

先ほども書いた様に、著作権は無条件に生じる権利なので登録等は必要ありません。

つまり、全てのクリエイターは著作物を制作した瞬間に著作権が生じて、自由にその作品を使って商売をすることができるし、勝手に他人によって作品を改変されることもありません。かなり強い権利ですね。

著作権の例として「漫画のパロディーや同人誌ってどうなの?」といえば、完全に著作権侵害です。財産権・人格権のどちらにも抵触しますが、なぜ成立しているかと言えば、著作権侵害が親告罪だからです。

親告罪:被害にあった人が申告することで成立する犯罪

著作権者自体がそれを主張しなければ罪には問われず、漫画の場合にはそこまでネガティブな影響がない事が多いため、見逃している事が多いみたいです。ただ、権利を主張すればすぐに一網打尽にできます。

また、完全に個人だったり教育用途であれば複製したりすることも許可されていますし「(著作物を)知らなかった」「似ているだけ」等の言い訳をされる事もあって親告する場合には証拠がかなり重要です。

著作権は日本で作者の死後70年までしか保護されないため、永続して保有される権利ではありません。

ちなみに、著作権(財産権)は人に譲渡することが可能ですが、人格権は譲渡する事は不可能です。

つまり、著作権を譲渡した場合著作者と著作権者は異なる可能性がありますが、著作者人格権は常に著作者の方にあり続けるという事ですね。この辺は分かりにくいですがデザイナーは理解しておきましょう。

商標権って何?著作権との違いは?

商標権は商業に使うための「印」を守るための権利です。著作権のアドオンだと思いましょう。

例えば「会社名・商品名・ロゴ」などが商標権の対象になります。

ただし、商標権は特許庁に申請して審査を通過した場合にのみ取得可能な権利で、お金もかかるし適応期間も10年間と限られていますが、効力は強く、商標権を侵害している場合に「知らなかった」では済みません。さらに10年ごとに更新し続ければ、著作権とは異なり永続的に権利を保有する事もできます。

意外なのですが、商標権は権利として最強かと言うと、実は著作権の方が強いです。

例えば、商標権を登録しているロゴに対して、著作権者が拒否している場合には、商標として使用することができません。これは商標法の第二十九条に記載されている事項で、著作権の優位性を示しています。

つまり、商標登録されてるけれど著作権侵害をしているケースというのが存在して、その場合に著作権を持ってる人が著作権侵害の申し立てをして認められれば商標権が使用できなくなるという事になります。

非常に強力な権利ではありますが、著作権とはまた別の権利であることも知っておきましょう。

商標権をめぐる争い

ロゴではあまり無いですが、お菓子のネーミング等ではよく争いが起きます。例えば総理大臣や元号などを用いたお菓子の名称などは候補をあらかじめ申請しておくような手段も用いられます。

ただし、ロゴに関しては特に文字のみで制作した「ロゴタイプ」の場合には著作権物として見なされないケースがあり、ブランドとしてロゴが非常に重要なケースでは商標登録での防衛が必須になるケースも多いです。例えば、この辺りの著作権については「Asahi」のロゴタイプの裁判が有名な事例になります。

その他の権利:意匠権

意匠権もデザインに関する権利ですが、工業的に量産できるモノにのみ適応される権利です。

商標権と同じく特許庁に申請して取得する権利で、形状・色・模様などが保護の対象になっていますが、世の中に新規に知られる様なデザインかつ容易に制作されない様なデザインでないと認められません。

基本的には、いわゆるプロダクト・インダストリアルデザインのジャンルに関わる権利になっています。

権利に関するよくある事例

① 著作権の”譲渡”の有無

ロゴ・イラスト・写真などの分野で契約する時に多いのが、著作権譲渡の有無に関してのお話です。

著作権に関して検索すると「必ず著作権に関しては譲渡させるようにしましょう」という様な解説をしているサイト等ありますが、この機会に「著作権」というものについてよく考えてみて欲しいと思います。

正直この「著作権譲渡」に関しての部分はクリエイターの中でも意見の分かれる部分ですので、デザイナー・クライアントの両者ともある程度知識を持って契約した方がいい大きなポイントだと思っています。

ちなみに、著作者人格権は譲渡ができないので「不履行」という形で契約をする場合があります。

公表権:作品の公表の有無を決められる
氏名表示権:名前をどう表示するか決められる
同一性保持権:変更や改変などを受け付けない

細かく分けると「著作者人格権」はこの3つから成り立っています。

この著作者人格権の不履行に関する契約をしていないと、著作権を譲渡していても、公表権を履行して「やはりこの作品は公表してはダメです」と言われてしまえばデザインを公表する事ができません。

よくあるデザイン契約の形:著作権の譲渡+著作者人格権の不履行

ただ、ここで「それなら著作権も譲渡してもらって、人格権も不履行にしてもらわないと危ないな」というのはまだ早いです。もう少し細かく著作権と著作者人格権の同一性保持権についてお話を続けます。

著作権の中には特別な項目があって、それが第27条と第28条です。

第27条(翻訳権、翻案権等)著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利) 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

引用:「e-Gov 著作権法

この2つに関しては、例え「全ての著作権を譲渡する」と契約書で書かれていても、特別に第27条・第28条に関する記載が無ければ譲渡されない様になっています。もう少し細かく解説をしておきます。

第27条は、主に翻訳や改変に関する権利で、著作者人格権の同一性保持権とやや被る部分があります。例えば、譲渡されていないのにロゴを勝手に改変する様な場合にはこちらの条文に抵触しますね。

第28条は、いわゆる二次創作に関する条文で、例えばイラストを使ったロゴを納品して、そのイラストに名前を付けて絵本とかアニメとかを作ったら著作者として意見を言えるという内容になります。

例えば「ロゴ」は汎用できるデザインではないので、著作権を譲渡する契約をする場合もありますが、その場合、第27条・第28条に関する特記は認めず、著作者人格権について、自身のポートフォリオとしての公表権の履行および同一性保持権は履行する可能性があるという旨の契約がフェアかなと思います。

勝手に四角のロゴが三角にされたり、勝手にイラストに政治的な発言させれたら困りますよね。

そういう場合に「自由に修正できないの面倒」というクライアントの方もいると思うのですが「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変 」は可能になっています。

著作権に関しては、クライアントの方とお話していると「とりあえず」という事で譲渡を希望される方も多いです。ただ、デザイナー側も著作権を譲渡することでかなり立場的に不利にはなってしまいます。

ですので、著作権を譲渡する案件ではデザイン料金が高額になったり、ご契約に関して何度か協議・修正等をお願いする場合もあるのですが、その辺りはお互いに尊重してご理解いただけると嬉しく思います。

例えば、著作権は譲渡せずとも、デザインの排他的使用(場合によっては使用媒体等)を認めて、人格権に関する規定も入れた契約をすれば、全て求めている条件に合致して問題ないケースが多くあります。

デザイナー自身も決してお金を多く取ってやろうというネガティブな気持ちでやっているワケではなく、作品を使ってもらえたら嬉しいのですが、ロゴ・写真・イラストのコンペなどでは条件に「著作権の譲渡+人格権の不履行」が入っている事が多く、そういった部分でピリピリしているデザイナーも多いです。

ですので、デザインをご依頼されるクライアントの方は、依頼される際に著作権などの部分に関しては事前にご相談されるのがいいと思います。また、デザイナーの方は著作権の扱いに注意するのが大切です。

難しい事を言っている様ですが…

言いたい事は著作権を譲渡しなくても基本的に自由にデザインを使ってもらえるという事です。安易に著作権譲渡と言われると身構えてしまうデザイナーもいるので、まずは相談してみましょう。

② ロゴの商標登録の有無(商用利用と商標利用)

ロゴは商標登録の対象でブランドイメージを保つために似た様なロゴを制作されない様に商標登録をする場合があります。クライアントの方で商標を考えている場合は最初にデザイナーに伝えておきましょう。

特にロゴの商標登録に関して気をつけるべきなのは「ロゴタイプ・フォント」の部分に関してです。

ロゴタイプのみのロゴの場合は、文字自体の独自性が高く制作されている場合が多いので問題ないのですが、ロゴマークをメインとしたロゴ制作を依頼した場合におまけでロゴタイプをつける場合があります。

そういったケースでは、既存のフォントや少しだけフォントを加工したものを使用したりもします。

フォントをロゴに使用する場合、商用利用と商標利用に関して混同せずに把握しておくことが重要です。

・商用利用可能:利益を伴うロゴやフライヤーなどのデザイン制作に使用する事が可能

・商標利用可能:商標登録するロゴなどのデザインに使用する事が可能

商標利用に関しては各フォントメーカーによって可否が分かれているので把握しておく必要があります。例えばモリサワ・タイプバンク等は商標利用不可ですし、フォントワークスやAdobeFont等は可です。

ですが、全く無加工のフォントをロゴとして商標登録できるかと言われれば、それは難しいと思います。

最初から商標登録に使う可能性があると相談されれば、業界調査等も入念になりますし、シンボルだけでなくロゴタイプもオリジナルで制作する必要があるなど広く提案が可能になりますし、お見積りの価格も変わってくる場合も多いので、聞かれなかったらなるべく最初に伝えておいた方が良いと思います。

ただし、デザイナーやデザイン事務所なども最善を尽くしますが「商標登録」というのはあくまで特許庁が審査するものですので、ほとんどの場合にはデザイナー側で保証できる様なモノではありません

クラウドソーシングで依頼する際などはこの辺りの説明が不足している場合も多いので注意しましょう。

まとめ:デザイナーが知っておきたい著作権と商標権

今回は著作権・商標権などの権利関係のお話を解説してきました。

権利関係はコンテンツを制作する側の人も、依頼をする側の人も知っておくと便利な知識だと思いますが、詳しく読み解くと大変なので、今回の様な概要だけでも知っていると役立つ場面もあると思います。

もう少し詳しく知っておきたい方は、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)にある「著作権Q&A」というPDFが無料で読める様になっているので、そちらを参照いただくのも良いと思います。

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